さつき会ブログ

さつき会イベント委員の有志が会員の皆さんと一緒に様々な情報をお伝えしていきます。           (※ブログ内の関連情報は、興味をお持ちの方にさらに深く知って頂くためのものです。さつき会として販売促進するものではありませんのでご了解ください。)

小石川植物園でのKew garden画家による植物画教室

私の愉しみ

今回は、さつき会会員・宮下深帆さん(1998年教育学研究科・教育心理学コース)からの投稿です。
宮下さんは、困りごとで気落ちしている方がいたら、新しいことに踏みだして希望をつかむきっかけになってほしい、というお気持ちで、このブログを書かれたそうです。


サクランボ細密画j4peg
水彩(ハイライト)の初練習…さくらんぼ

 女性として、ひとり親として、3.11ではふるさとを失くし、難病の重症患者となり、障がい者として生死の瀬戸際に立っていましたが、そのあいだに国による差別のあった法律の改正を叶えるなどしつつ、不思議に生きられてきました。
 そんな私の最近のとっておきは、英国キュー王立植物園(通称 Kew garden)の画家にご縁をいただいた、ボタニカル・アート事始めです。  一日の多くを横になってすごす身ながら、執筆にとりくんできて、なんとか10万字ほどのエッセイ集を書き上げた今春、2022年春のことでした。  原稿の発表先を求めるかたわら、リハビリに出かけた小石川植物園の受付で、 Kew の植物画家による教室のお知らせを見つけました。
 植物画は近年、第二の黄金時代ともいえるブームで、日本でも盛んになっているそうですね。
 今回は小石川植物園という研究機関が舞台になっていることもあり、植物学を支えてきた精細で美しい Kew 流のボタニカル・アートを教わってきました。  昨年の東京都庭園美術館で英国をとりあげた展示などを通じて、ボタニカル・アートの美しさ、かつて英国女性に許されていた稀少な職業だったことをご存知の方もいらっしゃると思います。
 Kew のボタニカル・アートは、精細に植物の組織が描きあげられた水彩画です。そしてまぎれもない細密画であることは、当然でした。
 それなのにウットリと眺めるばかりの私は、間の抜けたことに、実際に描くことになってから、それが細密画であることに気づいたのでした。 「大ざっぱで不器用な自分が取りかかるなんてガラでもない…」と大いに怯みました。 ところが、意外にも向いていることがあったようなのです。  不自由が増えて出来ないことの多くなった身にとっても、まだまだ探求し発見する愉悦に満ちた、豊かな世界を見つけたようでした。

ナス0
題材の参考写真(なす実物)

ナス細密画peg
もう一回ハイライトの練習…なす

その理由ですが、まず、
⚫︎力は要らない
 ということがありました。デッサンでも水彩でも、ボタニカル・アートのばあい筆圧はむしろ軽いほうがきれいに仕上がります。
⚫︎あまり腕を動かす必要がない
 植物の実寸で描くので、手の動きが小さいままで作業ができます。
⚫︎絵心に頼らなくても大丈夫  
  独創的な描写はありえません。 よく観察して、できるだけ正確に描くことが求められているので、ディバイダ(算数で使ったコンパスのような採寸器)を使って、凹凸も光彩も陰影も、ひたすら愚直に描きこむのみ。 絵心がなくても美しい絵が描けます。なぜなら、美しい対象をありのままに描ければ、それでよいのですから。
 初めは、震える手先とぼやける視力で細密画に挑戦する自分がぎこちなくて、笑ってしまうほどでした。ところが、慣れてくるとだんだん気にならなくなりました。 そして、ゆっくり取りくめる点が向いていました。 画材(花など)が元気なうちにデッサンしてしまえば、あとは自分のペースでゆっくりと仕上げることもできます。強壮な身体に恵まれていない者にとっては、願ってもないことです。
 さらにはじつは、急がないで描くということが大切だったりします。職業人・主婦業・子育てなどを一手に引き受けて四六時中動きまわってこなしてきた人間にとって、これはもうほとんどライフスタイルの革命です。
 一方で予想外だったのは、思った以上の認知活動が求められるということでした。
⚫︎一にも二にも、観察力
 デッサンでも彩色でもそうです。彩色でも生の画材を丹念に観察することによって、リアルな描画が仕上がって行くのですね。
⚫︎彩色では、自分がスパコン化
 水彩絵具は、乾いたときに色が薄くなり、色合いも変わってしまいます。 ですから “色をつくる” という次元に加えて、仕上がったときに望んだ色味になるように計算して色を作って行きます。 それから彩色の要となる、光彩と陰影の表現では、実物を仔細に観察して、描いている絵との差分を見てとりながら塗りかさねて行きます。
 差分の抽出は言ってみれば実物と絵を見比べる “間違いさがしゲーム” です。 自分の頭のなかで画像解析し、光や影を計算するところもあり(光のあたり方は刻々と変わるため)おどろくほど頭を使います。自分がまるでスーパーコンピュータのようになったかのようです。
 それは私に絵心がないせいなのか? それともボタニカル・アートの巧みな人は相当知能が高いのか? まだよく分かりませんが…  ボタニカル・アート初心者にとって、取りかかるまでの心理的障壁は高くて、大きな山のように思います。 観察したとおりに描くためにはどう手を加えれば良いのかという自分なりの “解” がないと、なかなか手が動かせないからです。
やっと取りかかっても「むずかしいー」と心のなかで悲鳴をあげてしまいます。それでも、とにかく自分なりの解にそって手を動かします。
 それから少し離れて、しばらくリラックスした状態でときどき眺めるようにしていると、描き方が必要十分なところと、不十分なところがふたたび見えてきて、さらなる “解” が浮かんできます。 心の働き、いとをかし、です。
 そうしているうちに  「案外いいんじゃない?」  「なんだか感じがいい」  と思える箇所が出てきます。それらを手がかりにして描き足して行くと、立体感が現れてきます。 しだいに実物と同じような凹凸が描けてくると、葉脈の流れなどが自ずと浮かんできたりします。 色を濃くしながら塗りを重ねていると、絵はしだいに生き生きとしてきて、そうなるといつのまにやら食事も後回しにして熱中してしまいます。 仕上がりまでには、期待と不安に揺れながら色をつくり、なんども勇気を奮って絵筆を濡らします。ひと塗りでそれまでの努力を台無しにしかねない彩色は毎回チャレンジで、冒険です。
 それでも出来ないことだらけになってから、まだ出来ることが増えるという手ごたえは大いなる悦びです。
 感激が嵩じて、先月はブルーベルの咲き乱れるKew gardenを目指してロンドンへの冒険にも出かけました。

キューガーデン

KEW garden の美しい展示

ロンドン画材や
画材を買いに…ロンドンの画材屋さん
 10万字の原稿も日の目をみるように努めつつ。これからも、不自由のなかにあっても出来ることに努めて行きたいと思います。  
病をきっかけに、さつき会で出逢った方々がつぎつぎと手を差し伸べてくださいました。いまのボタニカル・アートの愉悦も創造も、皆さまとの交流なくして到達することはありませんでした。あらためまして、心より御礼申し上げます。

宮下深帆(みやしたみほ)


(担当⁑ アレクサンドリア)

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コメント

ボタニカル・アート事始め以後

才能にかんする心理学研究では 40才くらいまでに才能は見出されるというのが通説だったと思います。ところが本ブログも一つのきっかけとなって、自分の潜在能力を見出していただくという、なんとも幸せな出来事がありました。

Kew garden 刊行の植物学ではもっとも歴史あるトップ・ジャーナルへのペン画のご依頼をいただきました。特殊なペンで描き直す必要があって、その注射針より細いペン先を見て「使いこなせるのか…」と怯えましたが、やるっきゃない!ですよね。

米国を代表する画家グランマ・モーゼスも70代で描き始めたといわれますから、年齢はあまり関係ないのかもしれません。

2023.03.01  ぴよ  編集

ブログ委員冥利に尽きます!

ブログも一つのきっかけになって、新たな依頼があったと伺い、ブログ委員の一人として感激しています。私も、宮下さんの植物画には、人を惹きつける何かがあると思います。嬉しいご報告をありがとうございます。

2023.03.16  ゆっちょむ  編集

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